花曇りの向こう


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1年生の最初の定期テストを考え、国語のテストの答え方が身につくように解答の解説をつけました。

答え方のコツは、こちらをご覧ください。

 

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 中学生になって、はじめての文学的文章の読解です。この単元で、しっかりと文学的文章読解の手法を身につけましょう。

 文学的文章で書かれる世界は、作者が創造した世界です。どんなに現実の世界と似ていても、決して現実世界ではありません。造物主である作者に創り出された世界なのです。

 現実世界は移動可能な空間の世界と、過去から未来にしか流れない時間の世界、そしてそこに暮らす生き物の三つによって成り立っています。そしてこの三つは、物理学や心理学などの科学で説明できる法則性によって支配されています。文学的文章も同じです。どんな作品の世界にも必ず作者は「いつ(時間的な設定)」「どこ(空間的な設定)」「だれ(登場人物の設定)」の三つを設定します。文学的文章読解のためには、一刻も早くこの「いつ」「どこ」「だれ」をより正確に、より具体的につかむ必要があります。

いつ・どこ・だれ

 最初の見開きの2ページから、次のことがわかります。

  • いつ…「中学入学間もない頃」「中学生活が始まって三週間」とあるから、4月の中~下旬でしょう。
  • どこ…「ばあちゃんの家」。関西地方です。
  • だれ…主人公は「僕」。名前は「明生(あきお)」。中学一年生です。
 明生君は「小学校卒業と同時に,僕はばあちゃんの家に引っこしてきた」とあります。ばあちゃんの家は,ばあちゃんのセリフ「なんや(何ですか)~」や「~慣れたもんやろ(慣れたものでしょう)」「~同時なんやし(同時なのだし)」等から,関西にあることがわかります。
 一方明生君には「胃が痛いんだ」「簡単にいくわけないだろ」等,関西地方の方言がありません。「通算三回も転校をしている」のですが,関西弁はが身についていません。たぶん関東地方で生活してきたのでしょう。
 コテコテの関西弁を使う学校に,関東からやってきた新入生…。それが明生君です。周囲になじめる訳がありませんね。「小学校のときはもう少し簡単だったはずなのに」と言っていますが,小学校の時と比べて言葉遣いが違う土地に引っ越してきたのです。なかなかなじめなくてもしかたがありません。

文学的文章の仕組みから結末を考える

 現実世界では,今起こっていることはわかっても,明日やあさって,1年後のことはわかりません。しかし文学的文章の世界では,未来はあらかじめ創造主である作者によって決められています。あなたが物語を読み始めた時には、既に本の最後に結末が書いてありますからね。

 例えば昔話では,「桃太郎」のように神様から授かった子どもは,必ず鬼を退治しておじいさんおばあさんに幸せをもらたしてくれます。「鶴の恩返し」のように,人間が約束を破ることによって幸せは逃げていきます。

 アニメなどでも,ライバルは最後に「強敵(とも)」という親友になりますし,けんかをした相手とは必ず仲直りをします。このような仕組みを「予定調和」と言い,その法則性を「物語文法」といいます。みなさんが小学校で習った「大造じいさんとガン」や「わらぐつの中の神様」も,みんなこの物語文法にのっとって書かれています。「ごんぎつね」も,実は「ごんが兵十に自分の気持ちを伝える」ことで,物語文法通りの展開なのです。(教科書ですから,文章のお手本である予定調和を乱す小説はまず掲載されないのです。)

 つまり,物語の設定がわかれば,物語の結末の予測ができるのです。

 では「花曇りの向こう」は,どのような結末が待っているのでしょうか。
 コテコテの関西弁の学校に転入してきた主人公。言葉遣いがまったく違うためうきまくって,ひとりぼっちです。結末は当然,友だちができてめでたしめでたし,ですね。友だちのいない転校生が,梅干しのお菓子をきっかけに言葉の違いを乗り越えて周囲と心を通わせ友情を育んでいく物語なのだ、と簡単に予想できます。

「花曇りの向こう」という題名

 このことは「花曇りの向こう」という題名からもわかります。「花曇り」というのは晩春の季語です。季語は俳句などで使う言葉で『歳時記』にまとめられています。他にどんな言葉があるかは,ここにも載っています。そしてこの物語の「いつ」と一致しています。桜が咲く頃の曇りの空なのです。

 雲が低く垂れ込めるほどではなく,比較的明るい曇り空です。太陽にカサがかかることもあります。まあ,春のあんまりパッと晴れてはいない空模様です。これは曇りと言い切ることはできないが,かといって晴れとも言えない「晴れることを放棄したようなぼやけた空」で,物語スタート時点の明生君の気持ちの比喩です。新学期で,クラスになじもうと思ってもなじめない,友だちが欲しくてもなかなか友だちができない,そんなモヤモヤした気分をあらわしています。

 では「花曇りの向こう」には何があるのでしょう。花曇りの雲の更にその上の空には,必ず青空が広がっています。そして何よりも,この四月の空が終わると五月の空…「五月晴れ(さつきばれ)」と言われるスキッとした青空が待っています。まさに,「花曇り」のような,友だちができずにパッとしない気持ちの明生くんに,花曇りの上には青空が広がっていて、花曇りの季節の次には五月晴れが待っているような,友だちとの明るい生活が待っている,というこの物語を暗示した題名だと思いませんか。

国語の学習で大切なこと

 教科書で文学的文章を勉強するのは,結末を知るためではありません。結末に至る過程…つまり主人公の気持ちの移り変わり(心情の推移)を読み解くことにあります。ですから授業では,先生は「主人公の気持ち」と,その移り変わりを読み取らせようとします。そして,定期テストや入試の問題も,これをきちんと読み取っているかをみる問題が中心となります。(ですから,気持ちの変化がない登場人物は,主人公とは言えません。)
 従って、「花曇りの向こう」では、明生君が「いつ」「どんな出来事」がきっかけとなって、「なぜ」周囲になじんでいったのかが、読解のポイントとなります。授業や定期テストでは,きっとこれが問題になると思います。

 

 そのポイントとなるのが修辞法(レトリック)です。どんな修辞法が使われているでしょうか。こちらもあわせてご覧ください。
 授業をよく聞いて,しっかりそれぞれの場面の「いつ」「どこ」「だれ」「何をした」「その結果どうなった」「それはなぜか」をつかみ、それらが「どこからわかるか」をしっかり覚えていきましょう。

小ネタ

昔よく食べた梅干しのお菓子

 この物語の鍵は梅干しです。「ばあちゃんは何でも梅干しでよくなると思って」います。

 実際に人間関係に悩む明生君に解決のきっかけを与えてくれるのは,梅干しのお菓子です。どんなお菓子だったのでしょう。

 「なつかしいパッケージ」「昔よく食べたかたい梅干しのお菓子」で,「父さんが好きだったせいで,僕は幼稚園の頃から気に入って食べては,すっぱいのにと周りをおどろかせていた」というものです。

 コンビニなどでは梅干しを使ったお菓子を何種類も売っていますが,昔から駄菓子屋で売られていたのは,こんな感じの商品なのではないでしょうか。

 「みんながいるかも知れないから」とわざとみんなのいない駄菓子屋に行ったくせに「みんなと交換しやすい物がいいな」と考えながら,この梅干しのお菓子に目をつけた明生君。そして「これじゃだれもほしがらないよな。そう思って棚に戻そうとする」のですが,「お,俺もそれ買おうと思うててん。」と川口君から声をかけられます。これがボッチを抜け出す(だろう)きっかけとなります。ばあちゃんの言うとおり,人間関係がよくなるきっかけをつくったのは梅干しだったのですね。


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