アイスプラネット


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はじめに

 「アイスプレネット」は,言うまでもなく文学的文章です。文学的文章はまず、作家が創り出した作品世界の諸設定を的確に理解しながら読んでいく必要があります。ここではまず「いつ」「どこ」「だれ」を明らかにしてみましょう。

舞台はどこか

 「東京の西の郊外」といえば、東京23区の西側に位置する「西東京」といわれる地域を指します。

 ここには、立川市や国分寺市、西東京市などがあります。多摩動物公園や、三鷹の森ジブリ美術館、天狗で有名な高尾山などがあります。

 ここの更に西側には、スタジオジブリ作品「となりのトトロ」の狭山丘陵や「平成たぬき合戦ぽんぽこ」の多摩丘陵,「耳をすばせば」の聖蹟桜ヶ丘があります。(いずれも東京都と埼玉県の境です。)「トトロ」よりもちょっと東京寄りで、「狸合戦」の頃建てられた家に住み「耳をすませば」みたいな街の出来事と考えて間違いありません。

 高級住宅街である練馬区や杉並区、サザエさんの家のある世田谷区の西側にあるこのあたりが都市化したのは関東大震災以降です。更に戦後,地下鉄丸ノ内線が開通し,一気に現在のようになりました。

 ちなみに、作者椎名誠の住所は東京都小平市であり,東村山市や立川市,国分寺市等に囲まれた,ズバリ「東京の西の郊外」です。また椎名誠は『さらば国分寺書店のオババ』というエッセイでデビューしています。

 舞台となる「僕の家」は「父の祖父が建てた」ものです。「父の祖父」とは悠太(僕)の曾祖父にあたります。曾祖父-祖父-父と三代代替わりをしていますから,30年で世代交代をしたとして,築60年くらいの物件です。家が建てられた頃は、ジブリの作品のようなのどかな風景にあふれていたと思います。 

 その頃建てられた家で代表的な形式が、サザエさんの家です。
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 「カツオとワカメの部屋」が悠太君の部屋で、「サザエとマスオとタラオの部屋」が津田さんの部屋と考えると、しっくりきますね。

 この家は悠太君のひいおじいさん(とおじいさん)が建て、そこでお父さんが育ちました。

 そのお父さんが大きくなり、結婚してお嫁さんが来ました。お嫁さんとは悠太君のお母さんです。

いつ頃の話か(年代)

 これを解決するヒントは、ぐうちゃんの年齢にあります。

 ぐうちゃんは38歳です。そしてテキストに、

  • 学生の頃に外国のいろんな所を旅していた

とあります。

 「学生の頃」といえば、普通18~22歳くらいです。

 学生が自由に外国旅行をすることができたのは戦後。特に昭和45年(1970年)以降です。

 世の中は大阪万博に沸き、ビートルズが流行していました。

 一方、伝統や制度を否定し、文明よりも自然を愛し、魂の解放を求めて若者たちが「自分探し」の外国旅行に出かけたのもこの頃です。(こういう若者たちは、当時の人から「ヒッピー」とか「フーテン」と呼ばれました。)ビートルズが流行っていた時代です。

 ぐうちゃんも学生時代にこの影響を受け海外旅行へ出かけたと思われます。

 それから15年ほど経ち、ぐうちゃんは38歳になったのがこの世界です。

 ですから、テキストの作品世界は1970年前後から15年経った1985年(昭和60年)前後と考えられます。

 ギリギリ年号が平成に変わる、昭和の最後の時代です。

 時代はバブルが崩壊し,失われた10年が始まろうとしていました。 

 ぐうちゃんは戦後の第一次ベビーブームの時に生まれた「団塊の世代」で、生きていれば75歳を超えた後期高齢者でしょうか。この世代の人たちは戦後の高度成長を支えてきました。

 一方悠太はバブルの時代に生まれました。そして中学生になった頃、オイルショックが起きます。それから就職する頃に深刻な不況を迎え将来「氷河期世代」と呼ばれるようになります。就職できないためフリーターやニートなどが増えるのは悠太の世代からです。

 生きていれば現在50歳くらい。みなさんのお父さんお母さんよりも少し上の世代でしょうか。(ですからあなたのおじいさんおばあさんたちとあなたのお父さんお母さんたちよりも少し上の世代の物語なのです。詳しくはこちらをご覧ください。) 

  ちなみにこの作品は,光村図書の2年教科書のために書き下ろされました。教科書に初めて載ったのは2012年(平成24年)です。作者は当然こういう時代背景を知っています。

いつ頃の話か(時期)

 主人公の悠太(僕)は中学生です。テキストに「それから夏休みになってすぐ」とありますから,物語のスタートは1学期に違いありません。時間の経過に沿って場面を分けると次のようになります。

 すべて段落の最初の文をチェックすれば簡単に分けることができます。

  1. 僕のおじさんは「ぐうちゃん」という。~(導入・登場人物紹介)
  2. その日も,夕食の後に僕は~(ぐうちゃんとの心のすれ違い)
  3. 翌日,学校に行く途中で~(更にぐうちゃんと心が離れていく)
  4. それから夏休みになってすぐ~(ぐうちゃんとの関係が冷えきっている)
  5. 夏休みも終わり近く~(ぐうちゃんがいないことに寂しさを感じる)
  6. 九月の新学期が始まってしばらくした頃~(ぐうちゃん家から出て行くことを知らされショックを受ける)
  7. 十月の始め~(ぐうちゃんとの別れ)
  8. それから四か月ぐらいたってから~(ぐうちゃんからの手紙)

 以上から,悠太の中学時代(何年生かわからない。2年生用教科書のための書き下ろし作品であることから,中学2年の時と考えるのが妥当。)の1学期~3学期(1月頃)の話です。


登場人物の考察

僕(悠太)

 中学生。おそらく2年生なので14歳。文学作品の主人公です。

 主人公とは、心情の変化が物語の軸になっている人物です。この作品は「僕」の心情変化を軸として描かれているので、悠太こそが主人公なのです。 

 平均以下の能力しかない中学生です。

 思考が幼稚で、自分の偏狭な知識を絶対視し、相手をバカにする傾向があります。 

 まず、周囲に対する認識が甘いことからそれが言えます。空気がまったく読めないと言ってもいいと思います。

 ぐうちゃんは、悠太の母親の弟です。そして悠太の家は、悠太の曾祖父が建てた、父方の家です。

 そんな家にころがりこんできた無職の自分の弟(無職)を、姉として心配し怒りながらも、弟が大好きなため「これ、ぐうちゃんの好物」と言って夕食準備をします。

 悠太は、そんな母親を「ちょっと変わっている」と考えています。

 また、そんなに広くもない家に弟を居候させている妻に気を遣っているのでしょう、父親は「安心だから」と妻に言っています。その言葉を「歓迎している」と考えたりしています。

 はっきり言って、悠太は母親の葛藤も、父親の優しさもわかっておらず、ご両親の言葉の裏に隠れた気持ちにまったく気づかない残念な性格です。 

 また、悠太は「宿題をするよりよっぽどおもしろい」と言ってぐうちゃんのほら話を聞きに行っています。成績も推して知るべしでしょう。

 「将来が心配」と言う母親ではありませんが、自分の置かれた状況や将来が展望できていないようです。

 (ちなみに、悠太君の近い未来には「受験戦争」と「就職氷河期」が待っています。時代の空気も読めていないのは、まあしかたがないかもしれませんが……。) 

 それでいて、ぐうちゃんがマジの顔をしてするマジな話を、「ほら話」と決めつけ、「ほら」を思いながらも、友だちに話して、友だちから責められて初めて「僕の人生が全面的にからかわれた」と頭に血が上ってしまうような、とても残念な性格の持ち主です。
 まぁ、友だちも「証拠を見せろ」と小学生レベルの対応しかできないようですから、類は友を呼んでいるのではないかと思います。(感想には個人差があります。)

  ちなみに作者は、中学生を読者として想定し本作品を執筆しています。

 読者が「自分よりバカだ」と思える人間を主人公とし、親しみやすく考えやすくしたのかも知れません。

 みなさんや、みなさんの周囲の友達と比べてどうですか?

 これは、シャーロック・ホウムズの冒険譚でも、読者より知能がやや低いワトソン博士を置くことにより,読者に優越感を与えホウムズの優秀さを際立たせるという手法です。

 悠太君は、おそらく現在50歳くらい。津田さんは、自ら望んで定職に就かなかったようですが、悠太君は、就職氷河期のあおりを受けて、望んでも定職に就くことができず、ご両親の年金を頼りに生きているということがないように祈っています。

ぐうちゃん(津田由起夫)

 38歳。主人公の叔父(母の弟)。主人公、悠太くんの母方の叔父で、「学生の頃に外国のいろいろな所を旅してきた」そうです。

 戦後、海外旅行が一般的になったのは高度経済成長の時代、1960年代です。1960年代に学生だったということは、1940年代後半生まれ(1940年代前半なら戦時中の生まれですが、ぐうちゃんに戦中派のイメージはありませんね)の団塊の世代です。

 今ご存命なら、確実に後期高齢者の仲間入りをしています。そんな津田さんが高校~大学時代は高度経済成長のまっただ中。世の中は「安保闘争」というのを中心に学生運動がとても盛んでした。

 その一方で、ヒッピーやフーテンといったナチュラル系の思想も大流行しました。ぐうちゃんは、このナチュラル系の思想に染まったのでしょう。肩まで伸びた長髪に、穴の空いたジーンズで、自分探しの旅に出かけたのかもしれませんね。

 「気づいたときには僕の家に住み着いていた」とあります。悠太君は中2の14歳と思われますので、おそらく最低10年近く姉の嫁ぎ先に居候しているのでしょう。

 とすると、作品の「現在」は1980年頃。バブルの時代です。 

 いくらバブルの中とは言っても、38歳の津田さんは、現在無職。姉の嫁ぎ先に居候をし、測量等のアルバイトをしながら世界旅行の資金を貯めています。

 現在、津田さんの測量関係のアルバイトは日給1万5000円、時給1,500円程度です。コンビニのバイトと比べると、けっこう稼いでいます。

 しかし、悠太君の家に食費等を入れているのでしょうか。居候というからには、入れていないのではないかと思います。きちんと相場どおりの住居費や食費を悠太の父親に支払っていれば「長いこと『ぐうたら』している」なんて周囲から言われないんじゃないでしょうか。
 しかし本人はそれを気にしていないようです。少しは居候させてもらっている姉の立場も考えてやってほしいと思います。 

 はっきり言って、自己中のアラフォー独身ニートです。
 不景気な時代でも、自分の家に、無職のアラフォーのおっさんが転がり込んで、暮らしていたとしたら、どう思いますか。親戚には絶対いてほしくないおっさんです。
 悠太君は男の子ですから、おっさんの部屋に入り浸っているようですが、女の子だったら、絶対に寄りつかないと思います。
 おそらく、作者のイメージの投影なので、美化されているんだと思いますよ。

母(旧姓津田)

 主人公の母。おそらく40歳前後。嫁ぎ先の家に自分の弟を居候させています。

 そして弟の生活態度を心配し、怒っています。一方弟の好物を夕食のメニューにしようとするくらい、弟大好きなブラコンです。

 義父は同居していないようですが、「父の祖父」が建てた家(自分が嫁いだ先の家)に弟を居候させているため、夫に後ろめたい思いをしている可能性があります。

 夫(や義父等)の手前「しょっちゅう」弟を怒っているのではないのでしょうか。

 「珍しくビールでも飲んだらしく」とありますから、毎晩お酒を飲む習慣はないのでしょう。しかし結婚前はバブルの時代であったため,若い頃はイケイケの生活を送っていて,けっこういけるクチだったのかも知れません。

 酔うと口数が多くなります。

 そして息子(悠太)が弟(ぐうちゃん)のようなダメ人間になってほしくないと考えています。

 母親は,既にバブルが終焉を迎え、これからは不況の時代とそれに伴う競争の激化を予感していたのかもしれませんね。

 この時悠太は「僕のことでぐうちゃんが責められるのは少し違う」と言っているが,まるで他人事です。

 (しかし、このお母さんのカンは、やがて的中します。悠太君は、団塊ジュニア世代と呼ばれます。別名氷河期世代です。就職の時期に深刻な不況を迎え、

フリーター、ニート、ひきこもり、派遣労働者、就職難民が最も多くなる「ロストジェネレーション」なのです。)

  悠太君の父親(お母さんの配偶者)ですから、やはりアラフォーでしょう。
 現在仙台に単身赴任中です。ということは、零細企業にお勤めとは考えられません。
大企業とまでは行かないかも知れませんが、ある程度国内に展開している東京都内の中小企業でしょうか。とすると、年齢的にも係長~課長級と考えられます。(ちなみにクレヨンしんちゃんのお父さん(35)は東京下町の商事会社の係長。波平さん(54)は銀座に本社を持つ商社の課長級とされています。)
 
お父さんは「ぐうちゃんがいると何か力仕事が必要になったときに安心だから」と言っています。しかし、心の底から歓迎しているかは不明です。(悠太君が「歓迎している」と言っているだけです。)
 ぐうちゃんに対して「若い頃に世界中のあちこちへ行っていたから~なんだか羨ましいような気がする」と言っています。同じ「団塊の世代」に属しても、ぐうちゃんのようにヒッピー的な生き方をしたのではなく、ヘルメットをかぶり、角材をもって学生運動に身を投じたのでもなく、日本一有名なサラリーマン『島耕作』のように、ひたすらまじめに高度経済成長を支えてきたのでしょう。


 「アイスプラネット」のQ&Aをまとめました。

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