メロスは、自分が走る理由について、最後に次のように語っています。
「走れメロス」の元ネタであるシラーの「人質」では次のようになっています。
たとえ、間に合わなくても、友を救えなくても、死んでひとつになれる!王にだけは自慢させない、「やっぱり友を裏切った」と。愛と誠の二人を殺せばいいんだ!
どちらも、セリヌンティウスの処刑に間に合わなくてもかまわない、と言っていることに違いはありません。
「人質」のメロスは、自分も自殺して、王に「愛と誠」を示すのだ、と言っています。言い換えれば王のために走るメロスです。
一方「走れメロス」では「信じられているから走るのだ」と説明しています。直前の「それだから」は、フィロストラトスの語った「メロスは来ますとだけ答え、強い信念を持ち続けている様子」を指しています。友の信頼を裏切らないために走るメロスと変えられているのです。
この「友からの信頼」が「もっと恐ろしく大きいもの」の正体でしょう。
言い換えれば、約束を守ったという約束を守ろうとした気持ちこそが大切である、という主張です。
シラーの「人質」でフィロストラトスはメロスの執事であったものが、「走れメロス」ではセリヌンティウスの弟子に変更されています。
メロスの執事だったら「結果はわかっているから走るのをやめろ」と主人であるメロスに進言するのは当たり前です。しかしセリヌンティウスの弟子に「走るのをやめろ」と言わせることで、「友を裏切らない」という立場をはっきりさせたかったのではないでしょうか。